2014年 12月 01日
感想_雪沼とその周辺
c0160283_0222811.jpg人も時代も移ろい、巡る。堀江敏幸『雪沼とその周辺』読了。郊外の山あいの町、雪沼。小さなスキー場のあるこの町に暮らす人々の、つつましくも豊かな巡り会いと人生の物語。芥川賞作家の7つの物語からなる連作短編集。
堀江敏幸『雪沼とその周辺』|新潮社

堀江さんの本を初めて読み、お名前は存じてましたが芥川賞作家ということは知りませんでした。本作が川端康成文学賞受賞作ということも。たまたま京都の「世界文庫」で目に止まって、ああ堀江さん読んでみたかったんだよな、ってノリで手に取った出会いでした。僕の好きなタイプの連作であり、穏やかだけど洗練された過不足のない文体もツボでした。

舞台はタイトル通り、雪沼という町であり、その周辺に暮らす人たち。今日で店じまいのボウリング場。主人を亡くした小さなレストラン。昔ながらの経営を続ける町工場。そのすべてに小さくとも等身大の暮らしがあり、そしてそこには人の人生があって、巡り会いがある。とりわけドラマティックではないかもしれないけれど、だけどやはり生きてきた時間分の物語が詰まっている。夢を与えたり涙を流させたりはしないけれど、心のすきまにじわっと染み込んでくる。ああ、僕も大した人生を送っていないけれど、それでいいんだって思わせてくれるような。いや、本書が変に自己肯定を押し付けてくるわけじゃない。あくまで物語は淡々としているし、厳しさや寂しさもはらんでいるんだけど、なんていうかその普通っぽさこそリアルなんだよね。

この本が出たのが2003年で、10年以上前にしてこの感覚をすでに持っていた堀江さんがすごいなぁと。震災があり、スマホ時代となり、氾濫する情報に翻弄されまくっている今、この雪沼の静けさと地に足ついた感覚には人を惹きつけるものがあると思う。地方移住を考えたり、実践したりしている人には、これこそ求めているものだ!って思わせるかもしれない(表面的に)。

なんか僕たちは共同幻想を見ているのかもなぁ。インターネットがまるで僕たちがすごい力を得たかのように思わせるけれど、人間自身がそんなに進歩しているわけではなくて、なんだか勝手に実体のない大きな旗を振りかざしまくっているような。そこにはレンガひとつの重みも、凧が受ける風の力もなくって、「できる気になっている」「どこか勘違いしている」んじゃないかなーとか、そんなことをこの本を読んで感じました。僕たちは遠くのナニカよりも、もっと目の前の人の顔を見て、日々の思い出を共有し、風とか音とか色とかを味わいながら暮らしていくくらいがちょうどいいのかなって。できる(気がする)ことが増えて、遠くまで行けるようになっ(た気がして)て、ついついもっと先へ、もっとたくさんを、って思っちゃうけどね。

旅先で偶然手に取って、そしてずいぶん時間がたって開いた本が、とても心地よくて。こういうの、すごく嬉しいことだよね。とてもよい本で、オススメです。
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by april_hoop | 2014-12-01 00:00 | 出版 | Trackback | Comments(0)
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