2014年 01月 21日
北欧旅行に行く前に読んだ『エストニア紀行』でちょろっと触れられていた絵本が気になって、帰ってきてからすぐに読みました。それがこの『ながいながい旅』。主人公の少女イロンはエストニア生まれ。両親が離婚して母親と暮らしていましたが、どこかの国の兵隊がやってきたためおばあちゃんのいる町へと避難します。新しい友達ができ、豊かに暮らしていましたが、今度はまた別の国の兵隊がやってきました。イロンは親戚のおばさんを頼って海を越えてスウェーデンへ向かいますが…。 ながいながい旅 絵を描いているイロン・ヴィークランドさんの自伝的な絵本だそうで、彼女の体験がもとになっているそう。時は第二次大戦前後。最初にやってきたのはドイツ軍で、そして次にやってきたのは独ソ不可侵条約を結んだ後のロシア軍。エストニアという国は、特に土地が肥沃というわけではなかったけれど、昔から軍事的、経済的に重要な拠点として他国の干渉、支配を受け続けた国だそう。この話はまさにそれを端的に表している。 少女は、ひとりで旅をするわけだけど、淋しさを押し殺しながら気丈に振る舞う。唯一心を許していた犬さえも兵隊によって奪われ、しかしそれでも運命の荒波をわたっていく。おばあちゃんのいたハープサルという町はとても美しく描かれる。中世のようなかわいらしい建物に、豊かな木いちごの森や冬の凍ったバルト海。それと対照的に描かれる、灰色の軍隊。子供ながらに、いや、子供だからこそ戦争の不条理をストレートに感じ取っていることがわかる。どうしてなんの関係もない犬が撃たれなくてはならないのか。誰も答えられないというのに。 子供の目線なので、戦争のディテールや背景は描かれていません。だけど、ひとりの少女に暴力的に襲いかかるこの悲劇の連鎖が落とす影はあまりにも暗く、濃い。イロンは結果的にそれを乗り越え、絵という希望を見出すことができたけど、おそらくそうではなかった子たちもたくさんいたはず。子供だけじゃなく大人だって。タイトルは「ながいながい旅」。絵本では数十ページだとしても、イロンにとって生まれた町を離れ、生まれた国を離れることは途方もない長旅だったことは想像に難くない。どれだけ不安でどれだけ淋しくてどれだけ孤独だったか。 「ながいながい旅」というのは同時に、絵本作家として生きるイロンさんの人生という意味もあるんだろう。困難を忘れてはいけないけれど、希望もある作品。さらっと読んだときはあまりわからなかったけど、背景あわせてよくよく読み込むと思わされることがいろいろとありました。観光旅行ではわからないことだらけで、でも多少也とも縁ができた土地のことを理解するのは大事ですね。
by april_hoop
| 2014-01-21 00:00
| 出版
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ツナガール。1min.で読めるがルール。管理人エイプリル(1977年生まれ)の日々雑感エトセトラがどこかで誰かと何かをコネクトしてユナイトすることを願いつつ、であーる。 by april_hoop information
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