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2013年 10月 01日
感想_いつも彼らはどこかに
c0160283_8504718.gif不在なるものを、想う。小川洋子『いつも彼らはどこかに』読了。スーパーで試食コーナーに立つ女はある日、競走馬のディープインパクトが、凱旋門賞に出走するというニュースを聞く。日本からフランスへと渡るその旅には、ディープインパクトにストレスを与えないよう帯同する馬が用意されるとか。女は、帯同馬の気持ちを思う。日が当たることなく、しかしヒーローを支えるために寄り添う彼の気持ちを。彼は何を思うだろうか。ニュースになることもなく無事に帰国できるだろうか。
小川洋子『いつも彼らはどこかに』|新潮社

あらすじ書いた感じの、どこかしらに動物が見え隠れする連作短編集。連作とは言うけど特に話がつながってるわけじゃなく、動物というキーモチーフが統一されているだけ。その動物にしても、生身の動物あり、人形の動物あり、ワッペンの動物あり、いろいろな形で登場するけどそれが必ずしも主役ってわけじゃないしメタファーなのかどうかもわからない。ので、真に統一されているのはやはりどこかパラレルワールドのような世界の、名もなき人の小さな物語をすくいあげているということ。動物の存在を通して、声を持たないものの声、というのを描いているように思います。小川イズム、ですね。誰にでも、その人生が紡いだ物語がある、と。以下、備忘録的に各話の感想。

「帯同馬」
初っ端から小川さんの匂いに包まれるわ。自分の役割をまっとうする女と、彼女が出会う奇妙な小母さん。そして帯同馬のニュース。自身を重ねながら居場所を求める感じが慎ましい。潜在的にある遠くへ行きたい願望と、現在地を離れることへの恐怖の葛藤が絶妙。

「ビーバーの小枝」
作家の私は、亡くなった翻訳家を訪ねその息子Jと会う。彼が教えてくれたのは翻訳に使われていたというビーバーの小枝の話。ほんの小さな、だけれど丁寧に削られたその小枝。小さい枝が無限の海を照らすガイドとなる。誰の目にも止まらないけど、誰かを支えるものたち。目に見えない小さな何かが、大きな何かを動かしていることもある、という話。

「ハモニカ兎」
オリンピック競技がひとつ行われることになった田舎町の静かな狂騒を描くユーモラスなお話。「犠牲」「牽制」「盗む」「重殺」なんて文字が踊る謎の競技の紹介が小川さんらしくて微笑ましかったぜ。町の広場にある絶滅したハモニカ兎の日めくりカレンダー。いつの間にかひとりぼっちになり、勝手に役目を押し付けられ、そして最後は打ち捨てられる淋しさよ。

「目隠しされた小鷺」
小さな美術館を訪れるうらぶれた老人と受付係の密やかな交流。世界を隔絶する闇に包まれても、誰かが手を引いてくれる。老人には受付嬢が。小鷺には老人が。

「愛犬ベネディクト」
入院する妹が残していった愛犬のベネディクト。それはドールハウスの中で暮らす犬。散歩につれ、餌をやり…。ちょっとオカルティックにも思える偏愛の話、なのかな。わからないや。

「チーター準備中」
動物園の売店で働く女。いつの日か彼女はチーターの檻に目を奪われる。「Cheetah」には、女が17年前に手放した「h」が潜んでいたから。不在のものを思うこと。空っぽになった檻。いなくなったh。

「断食蝸牛」
断食施療院に入っている女は、近くにある風車塔へと足を運ぶ。風車守はそこで蝸牛を飼っていた。落丁図書館が出てきたり、療養中の女が出てきたり、欠落を抱えたものたちの物語。なんだかやりきれない結末だけど、みんななにかしら欠落しているよね。

「竜の子幼稚園」
旅ができない人のため、その人の身代わりを持ち代理で旅をする女。旅先でであったのは、随分前になくなった弟が大切にしていた「3月3日」の数字だった。多くの人にとってなんの意味を持たないけれど、たった一人にとっては特別なもの。最後、女は弟と再会できたのでしょう。

てことで、どれも小品ながら小川さんスパイスが利いた、物語たち。こうしてみると、どれも、今そこにないものを思っているんだよな。それを想うことが物語を生み、そしてその物語は目に見えないところで僕たちとつながっていくんだよなぁ。なんてしみじみ思う。小川さんの小説にどことなく死の香りがするのは、不在を思うことが多いからかもしれないと思ったのでした。

by april_hoop | 2013-10-01 00:00 | 出版


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