2013年 05月 27日
感想_夢幻花
c0160283_1245389.gif久しぶりの私的ヒット作! 東野圭吾『夢幻花』読了。かつてはオリンピックを目指しながら、今は水泳をやめ無為な大学生活を送る梨乃。彼女にとって素直になんでも話せたただひとりの祖父が、何者かに殺されてしまう。祖父の遺志をつぎ、祖父が育てていた草花をブログにアップする梨乃。すると、ある男からコンタクトを求められる。その男が注目したのは、種類のわからない黄色い花だった。その花はいったい何なのか。祖父の死との関係は? 梨乃はその謎を探り始めるが…。
東野圭吾『夢幻花』|PHP研究所

東野さんの近作は、よくできてるけどイマイチ心に刺さらないな〜と思っていた僕ですが、この新作はヒットだったわー! NY旅行の機内であっという間に読了。あっという間過ぎて残りのフライトがひまになったほどにグイグイ読めちゃいました。これ、ずいぶん前の連載作品で、なんかほぼ全面的にリライトしてたから時間がたっちゃったんですと。そのあたり、↑のHPにコメントが載ってましたわ。

黄色い花がもちろん鍵を握るわけで、だけどその周囲の人物にも謎が多くて、いくつものミステリを同時進行させながら徐々に核心に迫って行く構成がまずはおみごと。このあたりはいつもどおりね。そして主人公が梨乃と、もうひとり蒼太。大学生のふたりがキャッキャしながら話を進めてくのだけど、このふたりのキャラもなかなかいい。梨乃はなぜ水泳をやめてしまったのか。蒼太は大学院での研究を職業に活かす術がみつからない。それぞれなりのモラトリアムの中で、事件捜査を通じて成長を遂げる姿が青春小説としても素晴らしい。もちろん、ほんのりラブなわけですけど、そこには踏み込まなかった東野さん、自制が利いてていいと思います(恋愛小説は苦手でしょうから)。

そう、ミステリとしてのデキはいつも通りいいんだけど、ふたりが一歩を踏み出す姿こそがこの小説のすべてだと思う。蒼太が学んでいたのは原子力であり、小説の時代設定も原発後の現代に置き換えられている。ゆえに蒼太は葛藤する。自分が学んでいたことはすべて無駄になってしまった。今では原子力を学んでいたことを口にすることもはばかられる。しかし、彼は一連の事件を通して、悟る。人にはなにかしら社会に対する使命や役割というものがあり、自分にとっては今はタブーとなった原子力に対して向き合い、これをどう処理していくのかを社会に対してメッセージしていくことだと。

まさしくこれこそが、最大の加筆修正部分だったと思われるんだけど(連載当時はもちろん311前なわけで)、この設定ができたことでこの小説はエンターテインメントの域を超えた意味のある小説になったと思う。梨乃はそれに比べると社会性は少ないかもしれないけど、周囲の声に振り回されて見失っていた自分を取り戻し、自分の真ん中に本当にあるものに気付いて行く様も、それはそれで個人のアイデンティティの発掘という重要なテーマをはらんでいて心惹かれる。僕は東野作品の真骨頂は、ミステリそのものではなく、その経緯を通して描き出される人物像にこそあると思っているので、そういう意味でこの作品は素晴らしいと評価しました。使命という言葉が出てきたからだけど『使命と魂のリミット』に共通する価値観があったと思う。

てことで、おすすめの一冊。ちょうど主人公2人も新しいステージにいったし、蒼太の兄ちゃんとか初恋の子とか周辺キャラもまだまだ深堀りできそうだし、スピンオフしつつシリーズ化ってのも面白そう。そしてどこかでまたみんなが集まって新作にしたりとかね。どうでしょう、東野先生?
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by april_hoop | 2013-05-27 00:00 | 出版 | Trackback(2) | Comments(0)
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