2013年 02月 16日
感想_楽園のカンヴァス
c0160283_2575077.gif楽しい種が一杯あるけどそれ以上にツッコミどころも。原田マハ『楽園のカンヴァス』読了。大原美術館のスタッフとしてはたらく織絵が、館長から呼び出される。依頼されたのはMOMAからアンリ・ルソーの傑作『夢』を借り受けるための、トップキュレーターであるティム・ブラウンとの交渉。なんとそれはティムからの指名で、実は織江とティムには過去に浅からぬ縁があった。それは、アンリ・ルソーの知られざる作品『夢をみた』の真贋をともに鑑定する7日間だった。
原田マハ『楽園のカンヴァス』|新潮社

今年の本屋大賞候補になってる去年のベストセラー。楽しみに手に取って、確かに楽しく読めました。アンリ・ルソーという画家を題材にとって、若きふたりの美術への情熱をフックにしながら、ミステリ仕立てで話を進めるという作品。実在する作品『夢』を導入に、それと酷似した『夢をみた』というフィクションの作品が、果たして本物かどうかを探っていきます。美術に明るくない僕はルソーにつては名前しか知らず、装丁が『夢』なわけだけど、この感じは見たことあるようなないような。いずれにしても、西洋絵画にも興味ありんす人間なので楽しんで読めたわ。巷の感想をチラ見したところだと、キュレーターという職業も知らなかったって人もいたりして、なるほど美術の知識がない人ほど新しい世界を垣間みる感覚で楽しめるのかもしれない。

だけどなー、エンタメっぽさが強過ぎるんだよね。せっかく美術への熱い気持ちでつづられているのに、万人受けのためなのか盛り上げなきゃという意図が見え隠れ。それが安っぽくしているようで勿体ない。ミステリ仕立ては確かにページをめくる推進力になっているんだけど、緻密さに欠けてるから最終的に残るのは数多のツッコミ所ばかり。せっかくの美術への純粋で熱い気持ちをさましかねないと思う。まず、なぜバイラーはあの古書を7日にわけて読ませたのか不明。最終目的がルソーを愛する人に絵を託すことだとして、それを推し量るような描写が皆無ってのは納得いかんよ。バイラーさんふたりの何を見てたのか教えてくれよ。そもそも織絵が代打で呼ばれただけというのもいただけない。ティムの存在は熟知しているのに、ルソーの新進研究家として業界をにぎわせてた織絵のことを感知していないのはおかしいだろう。まあティムとトムを間違えるというイージーミスも、これだけ慎重な人がするわけないのはわかっていたことだしね。でさ、伝説のコレクターと言われているわりには、側近の重鎮に裏切られてるのもしっくりこないし、サザビーズとテートだけ事情に通じていてMOMAは何も知らないっていうのもなんか説得力ないんだよな。

そしてヤドヴィガがこの物語を書いたことになっているけれど、そんな女か? 章ごとに書き手が違って読めるというくだりは回収されてないし。キャピタルにしてもミスリードにすらならないし、アナグラムにする必然性もまったくない。あげく、パッションてことはないと思うのだが…。なぜヤドヴィガがパッションなんて言葉を口にする? しかもアナグラムで? ありえん。いち庶民だったジョセフにしてもなぜそこまでルソーに心酔したのか、そのあたりの描写もなさすぎ。それから『夢をみた』のヤドヴィガの表情がやわらかいってのは、子を宿していたことを示唆していたように思うけど、もう少し掘り下げてもよかったんじゃないですかね。ここが織絵とシンクロする部分なはずだし、だから真絵の存在がまったく活きてこないのだよ。そう、ロリコンな俺は絶世の美少女とまで描写された真絵との関係が回収されないままっていうのが何よりも納得いかないんだよーーー! あんなに思わせぶりに出してきたくせに。ちなみに、このあたりのくだりでバイラーの正体が想像ついちゃうのもなんだわー。そしてジュリエットが都合良く登場し過ぎね。インターポールってそんな仕事もすんのか?

さらに気になるのは、この劇中劇の物語って、織絵が感涙し、ティムが胸震わすほどのものかな…。ということで、さらっと読むと面白いんだけど、よくよく考えるとちょっと待ってあれって? あれは? え、じゃあこっちは? みたいなことがたくさんあって、せっかくの面白い題材を活かし切れてなくてもったいないなぁというのが最終的な感想。ベストセラーってこのくらいの軽さじゃないとだめなのかなぁ。でもね、美術への興味を引かせるという意味ではとても有効だと思うので、中高生とかにぜひ読んでもらって新たなファン層を開拓できたらすっごくいいと思う。別に中高生に限らないか、広く読まれるのはそういう魅力があるってことなんだろう。

いろいろクダまいちゃいました、それでもやっぱり小説読むのは面白いナー。
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by april_hoop | 2013-02-16 00:00 | 出版


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