2013年 02月 19日
感想_舟を編む
c0160283_1373844.gif言葉の海へいざ。三浦しをん『舟を編む』読了。辞書編集者の荒木に見出され、営業から辞書編集部へと異動してきた馬締。かわりものゆえに社内でも影の薄い男だったが、その名のとおり何事にも真面目に取り組む馬締は、持ち前の言葉への探究心と類いまれな整理能力をもって、辞書編集者としての道を歩き始める。周囲を巻き込みながら、新しい辞書「大渡海」編纂の大海原へ漕ぎ出した馬締と編集部の行く末ははたして!?
舟を編む 三浦しをん | フィクション、文芸 | 光文社

2012年の本屋大賞1位、周囲で読んだ人間の絶賛評も聴こえてきたのでお貸し出しいただきました。「編集者ならば読むべき」とまで言われちゃったもんで、編集者の席末を汚すもんとしてスルーもできませんわな。辞書つくる話ですよね?くらいの前知識で臨んだ感想は……うん面白かった…のだけど、それゆえに、物足りなさも相当感じたというのが正直なところだなー。

馬締をはじめとしたキャラクター全般、魅力はあったと思う。だけどそれが必然性をもって動ききらなかったのが至極残念。主役の馬締さえもが前半でフェードアウトしちゃって後半はあまり前に出てこないのはいかがなものか。せっかく立てたキャラがどこにもいけないまま、ストーリー上の都合の中でしか光らなかったのはもったいないわ。主役でこれなわけで、その他のサブキャラたちはもっと生きてない。香具矢さんなんて相当イカス感じで出て来たのに後半キャラ変わりの憂き目に。もったいなさすぎる! 西岡&岸辺もいいもの持ってるのに辞書をよいしょする役割しか与えられず。こんな中途半端なら彼らの視点の章は必要なかったような気がするよ。馬締が弱まるというデメリットが大きすぎるもの。辞書に対する接し方をいろんな角度から持たせたかったというのはわかるんだけどね。西岡の章はけっこういいエピソードだったし。それゆえに、後半の再登場を期待したけどオマケ程度。しかもあれだけ理性をもって男前に持ち上げておきながらの軽薄落としはキャラへの愛情に欠ける気がしますぜ。

ストーリーにしても、序盤は勢いもあってキャラも光っていたのに、後半に行くほどに萎んでったわ。辞書編集に対しても、確かにそのエッセンスは落ちていたし、いろんな仕事があるという説明はなされていたけど、そっから先の深い海底にまで到達していないのがとても不満でさ。せっかくこれだけの大海にうってでたのに、ごく一部を遊覧ボートで30分行って来ただけって感じだよ。もっともっと光の当たらないようなダイオウイカの暮らす深海もあれば、美しいサンゴがきらめく世界とか、流氷が漂ってたり、沈没船があったりとか、とにかく辞書編集という大海にはまだまだ色んなおもしろ物語があるだろうに、そこに至っていないのが残念過ぎる。辞書編集という、昨今の文系部活マンガにも通じる一回しか使えなさそうな奥の手を持ち出したのになぁ! クライマックスを、松本さんで泣き落とすっていうのはいただけないよ。だいたい松本さんのキャラも不透明なままなのに殺して泣かすのはないわ。

言葉に対する感性とか、言葉が持つ力への言及は、やっぱり同業者としてぐっとくるものはありました。世界は確かに言葉でつくられていると思う。どうやっても相容れない個体同士をつなぎとめているもののひとつは、間違いなく言葉。その中でも日本語の持つ世界、いや、宇宙というのは本当に美しくもあり、深遠であると思うのです。その可能性をこういう形で照らし出してくれたのはとても嬉しい。これによって言葉への愛情を持ってくれる人が少なからずいるだろうと思うと、とても希望が持てる。んだけど、それゆえにもっと深堀してほしかったなぁ。続編でもいいからなんとかしてくれー。とかなんとか不満ばかりが出てくるのは、馬締同様に言葉への偏愛があるからです。あー辞書読みたくなってきた。そして僕も辞書編集に向いているんじゃ!?とか思ったり(似たような人がたくさんいると予想)。

三浦しをんさんの本は初めてだけど、ほどよいユーモアがあってクスっとしちゃうところがちらほら。ちょっとモリミーっぽさも感じつつ、こういうのっておそらく30代以下の作家にしか出せない味かもって思うわ。ボケ、ツッコミの文化が一般に認知されてから出てきたテクな気がする。会話ではないところでさりげないボケをしのばせるのって。まあ他の作品読んでみないとわかんないけどね。しかしベストセラーになる本って、どうしてもこういう感じなんだろうか。『楽園のカンヴァス』も似たような印象なんだけど、なんかすごくわかりやすく噛み砕かれていて、すごくマーケティングを意識しているように読めてしまった。そのあたり作者の本音はどうなんだろうなー。もしディレクターズカットみたいに自由に書いたら、もっと大傑作になってたりするんじゃないだろうかって思ったりして。ひとしきり長々と文句を言ったけど、中高生にはとてもいい本な気もします。これを読んで言葉への愛情を深めてくれる若者が増えたら、それはとても素晴らしいなぁと。うん、中学生の課題図書ってことで。

ところで、カバーをめくったらなんかコミックイラストが出てきてびっくり(あ、帯もそうだった)。しかもキャライメージと全然違うし。イメージと言えば実写映画! 龍平はイメージ合うけど、あおいちゃんが香具矢さんてのはないだろう。岸辺ならまだしもさ。でも石井裕也監督だし本編を楽しみにしよう。

関係ないけど、なんと文春から4月に村上春樹の新作長編が出るとか! やっぱオレはそっちに期待しちゃうなー。
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by april_hoop | 2013-02-19 00:00 | 出版 | Trackback | Comments(0)
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