2012年 09月 21日
感想_ひらいて
c0160283_23431868.gif綿矢りさ『ひらいて』読了。傲慢で自己中心的な愛は、彼女には似つかわしくないクラスでも目立たない男子・たとえに恋をしていた。しかしたとえは、そんな愛の気持ちに気づくことはなく、ただただ静かにそこに存在する。あるとき、愛はたとえが机に手紙を隠すところを発見する。夜の学校に忍び込んだ愛が見たその手紙は、美雪という同級生からだった。奇妙にねじれた三角関係は、ひっそりと、しかしすべてを破壊するかのように進行していく。
綿矢りさ『ひらいて』|新潮社

小説を読む量が激減する今日この頃、だけども綿矢りさの新刊が出ればちゃんと手を伸ばす僕は見事なまでにファンなのでしょう。村上春樹、東野圭吾(ガリレオシリーズ8も出るらしいぞ?)、小川洋子、綿矢りさ、金原ひとみが、必買作家となっております。全部が全部好きなわけじゃないけどね、もうこれはよほどのことがない限り添い遂げるんじゃないかと思います。で、すっかり世間的な存在感は失いつつある気がするりさりさ先生。今作は久しぶりに高校生主人公。けっこうサイコな展開だけど、昔から持っている観察眼と人間の中にある醜悪さに触れつつ、だけど純粋性をそこに同居させるのは、らしい感じ。でも昔よりもずいぶんと痛い。前はもっとふんわりしていたのだけど、これが綿矢りさの現在地点てことになるのかな。原点ともいえる第一人称はよりシャープになってて、やっぱりこれが持ち味だなーと思う。

主要3人の話でほぼ完結する世界、閉じた世界の中で、心を開くとはいかなることかを問いかける。愛は、恋心を秘めながら本心を隠し、嘘で全身をまといながら暮らしている。いちばん普通の感覚と近い人。誰もがなにかしらを演じながら生きるのは、それは開かれていないことになるのだろうか。たとえは、そんな愛を拒絶する。嘘はすぐに分ると。しかし彼もまた別の理由によって閉じられている(その理由はちょっといただけないと思うのだが)。彼の嘘に対する敏感さは正義かもしれないけど、ちっとも健全には映らない。そして美雪。無防備に開く彼女は、それゆえに傷つく。彼女のようになりたいとは思えない。だけど、彼女自身に傷ついた様子はあまりない。開くとはそういう強さのことを言うのか。

三角関係というあまりにもベタな設定でありながら、実際の中身は相当にエキセントリック。たとえは前作の隆大にイメージのかぶる無骨、朴訥系だけど家庭環境最悪のやや変わり者。それを好きになる愛と美雪がまたねじれた関係となっていくけれど、そこもまた開くの意味を問いかける。男と女、心と体、開くとは果たしてどういうことなのか。開くことで得られるものと失われるものはなんなのか。なにげに考えるとけっこう深遠なテーマに結びついているな。

でもね、話が痛過ぎるんだぜ。設定がぶっとんでるだけに、普通の人が感情移入するのはなかなか難しいと思われる。文芸作品としてはこのくらい書かないといけないのかもしれないけどね、ちょっとホラー的でもあったわ。開いてほしい、開きたい、僕も開くのが上手なタイプではないので、けっこう痛考え込んでしまいました。もう一度読むと違うものが入ってきそうな気もするな。
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by april_hoop | 2012-09-21 00:00 | 出版 | Trackback(1) | Comments(0)
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Tracked from 粋な提案 at 2013-11-22 15:32
タイトル : 「ひらいて」綿矢りさ
やみくもに、自分本位に、あたりをなぎ倒しながら疾走する、はじめての恋。彼のまなざしが私を静かに支配する――。華やかで高慢な女子高生・愛が、妙な名前のもっさりした男子に恋をした。だが彼には中学時代からの恋人がいて……。傷つけて、傷ついて、事態はとんでもない方向に展開してゆくが、それでも心をひらくことこそ、生きているあかしなのだ。本年度大江健三郎賞受賞の著者による、心をゆすぶられる傑作小説。 ...... more


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