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2012年 07月 02日
アラブという名の新世界へ
アラブという名の新世界へ_c0160283_8414125.gifアラブという名の新世界へ_c0160283_8415175.gif『アートを生きる』を読んで、俄然興味深く思っていた『アラブ・エクスプレス展』、開幕から10日ほどしてから行って来れた!@森美術館。これが期待以上にすごく面白かったなー。ゆっくり時間が取れなかったからもう一度観に行きたいくらい!
アラブ・エクスプレス展:アラブ美術の今を知る | 森美術館

美術館としては、ここにきて盛り上がるアラブ世界の現代美術を紹介することで、日本では限られたイメージが強くなりがちなかの地の実体を伝えるということに主眼があったみたい。でも期せずしてアラブの春以降は、政治的紛争や混乱の色がますます強くなってしまって、そのタイミングでの展覧会実施というのは、よくも悪くも絶妙なタイミングになったね。そういうイメージとは別のアラブも観られるし、やっぱりそういうフィルターをより強くもする作品もあったと思う。ただ、いずれにしても未知のアラブ世界が広がっていて、単にコンテンポラリーアートを観る以上の体験があったように思うわ。

セクション1は、アラブの生活と日常を教えてくれる作品。入口すぐのぼやけた女性の写真からして挑発的。とかく西洋からの視点で語られがちなアラブというものを拒否するその作品、我々極東の人間も西洋的視線から彼らを観ていたことに気づかせてくれる。その次のカイロの風景が収められた写真作品は温度感が伝わっていいなぁ。映像が流されていたパフォーマンス作品も興味深いし。その先にはドバイのブルジュ・ハリーファの建築現場を模した作品で、世界一の建物が生み出したものを可視化する。かと思えばレバノンで流行っているプリクラ的なものを批判的に見せた作品も。3人のアーティストユニット、おもろい顔してたなw そして今回いちばん印象的だったのは、マハ・ムスタファの『ブラック・ファウンテン』(写真)。その名の通りの黒い噴水は、アラブ地域の原油を想起させる。しかし噴出するその液体は、欲望の色にも見え、湾岸戦争時の原油による汚染をも象徴する。国際情勢と紛争、エネルギー問題というのはもちろん、その不気味さは、富を生むがゆえにもたらす恐怖をも示唆しているように思ったな。

セクション2は、アラブのアイデンティティに関係する作品。パレスチナを中心とした宗教問題や、めまぐるしく変わっていく国境、西洋からの視点とアラブの実態のギャップなど、いろんなアプローチでみずからのルーツを探っている。I'M SORRYと掲げられたその作品は、自身の境遇をユーモアをまじえて皮肉ってて面白い。奇妙にデコラティブなマスクをかぶった作品で、中東を覆うヴェールを軽やかに飛び越えてしまうのもユニークだったし、砂鉄を使って巡礼を表現したのはクールだったなー! そして鑑賞者自身が中東の白地図をパズル化できてしまう作品もまた、皮肉が利きつつ現実を教えてくれるものでした。そうそう、千夜一夜物語を朗読するあの作品も、いかに我々がステレオタイプなものの見方をしてるか知らしめてくれたっけ。

セクション3は、アラブの歴史と記録にまつわる作品。アブドゥルアジーズの『リ・マッピング』は、痛快な作品で、中東世界を未知の領域へと鮮やかに導きつつ、過去への批判も忘れてはいない。処刑が行われた箇所をただ写真に収めた連作も、一度観ただけではなにかわからないゆえの怖さを秘めていた。壊れた道を映した作品も、さまざまなものの不確かさを証明。レバノン内戦時の写真を合成した作品は、やっぱりこの地域の紛争の歴史をとどめている。なんというか、このセクションに限らず、全体的に過去への批判的な視点ていうのは強く感じたな。それだけアラブという世界は混乱し、西洋に振り回され、誤解を受けながら生きてきたってことなのかもしれない。

今回の展示には、かなり詳細なキャプションがつけられ、音声ガイドも無料で貸し出し前後の背景を説明してくれる。それはひとえにアラブ世界をより知ってもらいたいという主催の意志が見えて、とても助かった。かなり強い印象を受けたもんだから図録まで買ってしまったよ。それから、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのもとで、写真撮影と非営利使用が認められてたので掲載させてもらいました。てわけで、これはかなりオススメの展覧会。会期は10月28日まで。さあ、六本木へ行くのだ〜!

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本 ライセンスの下に提供されています。

by april_hoop | 2012-07-02 00:00 | 文化


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