2012年 05月 24日
感想_歪笑小説
c0160283_21251963.gifだんだん真面目なシリーズになってきたな。東野圭吾『歪笑小説』読了。東野圭吾が文壇の周辺にあるいろいろをネタにする、「笑」シリーズ4作目。文学賞や、小説誌、映像化など、身近な題材の裏側を舞台に作者の主客入り混ぜた目線で笑わせます。
歪笑小説|東野 圭吾|集英社文庫(日本)|BOOKNAVI|集英社

これまでのシリーズは、文壇に限らない舞台だったと思うけど、今回は文壇オンリーで攻めてきましたね〜。ポイントは、前作の『黒笑小説』に登場したキャラクターを引き継いでいるところ。熱海圭介や、唐傘ザンゲなどが登場して、それぞれが小説家代表という役割を担ったり、小説家の周辺へと読者を導く案内人的立ち位置になったりして、お話が作られてます。こういうスピンオフ発想で矛盾なく話を作れちゃうところも東野圭吾のすごいところ。長編小説をパーツ分けしていくとこういうことになるのかもしれない。

文壇オンリーだけに、東野先生の思い入れが強そうで、中身は笑いに向けてるけど、目が笑ってない感じ。かなりマジメに、デリケートに作られた話だと思った話。決して茶化したり揶揄したりってだけじゃない、小説家はこうあるべきとか、こういう風に見られるべき、みたいなニュアンスも感じたんだけどどうだろう。違法コピーとか著作権とかの話も微妙にほのめかさらえていたことは、あまりいい気持ちはしなかったな、オレは。特に最後のエピソード、図書館で新刊を読むことについてやや批判的に描かれてたのは残念です。図書館を入口にして作家のファンになる人もいるだろうからさ。ただ、好きな小説家を支える意味も混めて、本にお金を出して買う、っていう行為も必要なのかもしれないね。ただサービスだけをなるべく安く享受しようとする消費者にはなりたくないとも思う。正しい評価にはそれ相応の対価という形で答えたい。ただだから良いってもんじゃない。

って話がそれましたが。とにかく軽いタッチと爽快なテンポなので通勤電車とかでサクサク読めて楽しめます。ここまできたらぜひ『撃鉄のポエム』も『煉瓦街諜報戦術キムコ』もスピンアウトして書き下ろしてほしいわ。そうそう、なにげにいちばん好きだったのは「戦略」の最後の熱海圭介のファンのエピソードだよね。小説の世界に絶対的な価値なんてない。あるのは、多数派と少数派であって、たとえ少数でも作品を愛し作者に敬意を持つ人がいるっていうこと。数字の多寡で切り捨てられてはいけないものが、小説というものには込められているんだというのを改めて実感したな。小説に限ったことではなく、だよね。もちろんいろんな意見があるからこそ、最終的には自分自身の感覚を信じるしかないってことなんだろうけど。

その一方で、タイトルは「戦略」。マーケティングというものがかなり重要なポジションを占めている現代において、でもマーケティングや戦略だけでは絶対に見つけられない何かがあるんだ、ということを改めて主張しているように思いました。小説は、必ずしも「商品」ではない何かなんだ。と思いましたよ。

ってこれもまた話それ気味だね。そんな様々な視点を感じる東野さんらしい、軽妙な作品でした。
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by april_hoop | 2012-05-24 00:00 | 出版 | Trackback | Comments(0)
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