2012年 01月 11日
数字ひとつにも物語、か。小川洋子『博士の愛した数式』読了。家政婦の私が新しくお世話になることになった家には、数学の博士がいた。くたびれたスーツのいたるところにメモを貼付けた不思議ないでたち。彼は、ある事故により80分しか記憶がもたないのだった。そんな博士は毎朝、私の靴のサイズを訪ねる。数学を愛する博士と、彼の教える数字の宇宙に、私も私の息子もいつしか魅せられていた。 小川洋子『博士の愛した数式』|新潮社 ずっと寝かしていたベストセラーをようやく読了。はあ、さすがは小川さんだな。なんの文句もなく、その美しい文章と、静かで温かさに満ちた世界を堪能できたよ。小川さんは、どんな小さなものにも物語を見出しそして命を与える小説家だと思っているわけで、そのまなざしがこの数字、数式というものに存分に向けられている。素数、友愛数、完全数…。いくつも出て来る数にまつわるエピソードが、数学は苦手だった僕にも魅力的に聞こえてくるのだから、それこそがその筆致の確かさの、美しい証明でしょう。もしかしたら、小川さんがなんにでも物語を見出すようになったのはこの作品が大きな契機となっているのかもしれない(そのあたりはまだ全作を読んでないので憶測でしかないけれど)。 映画を観てたから筋はおよそ知っていた。でもやはり小川さんの作品は、単語が集合することで生まれるリズムや、エピソードが整列することで紡がれるストーリーに、映像にはない豊かな手触りが得られるからね。コレは本当にとても貴重な体験。そう、体験する小説なんだよ。五感を刺激するような身体的小説だと、僕は思うんだ。 しかもこの小説には阪神タイガースのことがことのほか多く書かれている。しかも、あの1992年だ。亀山が登場し、和田もまだ現役で、仲田が中込が投げ、湯舟がノーヒットノーランを成し遂げ(これは球団として江夏以来というのも不思議な縁だ)、そして八木のあの幻のホームランが飛び出し、最後に力尽き2位で終わったあの伝説的シーズン。これが心躍らずにいられようか!という個人的すぎる感情はさておき、こういうサブストーリーを数字を媒介として絶妙にリンクさせられてしまう凄さよ。江夏。28番。ラジオ。プロ野球カード。圧巻ですとも。 特別な起承転結や、ドラマティックなラストが待っている物語ではないから、面白い本とは少し違うかもしれない。だけど小川さんらしさとエンターテインメント性が両立した名作だと思うわ。てかタイトルが秀逸すぎるだろうよ。良い本で2012年の読書始めができたな。
by april_hoop
| 2012-01-11 00:00
| 出版
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ツナガール。1min.で読めるがルール。管理人エイプリル(1977年生まれ)の日々雑感エトセトラがどこかで誰かと何かをコネクトしてユナイトすることを願いつつ、であーる。 by april_hoop information
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