2010年 10月 13日
感想_センセイの鞄
c0160283_022402.jpgはぐらかし、とは上手いこと言う。川上弘美『センセイの鞄』読了。ツキコは、通いの居酒屋に今日もひとりやってきた。そこで出会ったのは高校時代の国語教師、松本センセイ。30も年の離れたセンセイとは、注文も勘定も別、酌はしないというルールのもと、なぜかウマがあう。約束などは特になくとも、ぽつりぽつりと顔を合わせながらふたりはゆっくりと、距離を縮める。
川上弘美『センセイの鞄』|新潮社

川上弘美の代表作ということで手に取らせていただきました。ボクは、ふたりがくっつくとは思っていなかったので、あ、そういう方向に行くんだ〜と少し意外な気持ちに。もう少し、恋とも愛とも違う距離感、信頼で絆を築いてくのかな、とぼんやり思いながら読んでいたから。だからといって、うげーとかいう抵抗はなくて、それはもちろんツキコとセンセイの描き方ゆえに、すんなりと受け入れられたわけだけれど。

どちらにも感情移入はしづらいのだけど、強いて言えばセンセイの境遇は羨ましいということにもなるのかな。晩年を迎えてなお女性とお近づきになれるってのはね。一定のリアリティはあるけれどつかみ所のないふたりと、ふたりの関係は川上文学の真髄か。解説の斎藤美奈子さんがそこんとこうまいこといっていて「はぐらかし」と評している。なるほど確かにはぐらかし。例えば旅館でふたりが同じ床についても、途中まで描いておきながら最後までは描かずに朝が来ている。ふたりの感情のヒントはくれるけど、実際に何をどう思っているのかは言葉にしてくれない。

そのはぐらかしこそが物語に想像の余地を与えてくれるし、限定しないことが心地いいのである。そして時には自分を重ね合わせることもできるだろうし、わざわざ「ありえねー」なんつってそっぽを向く必要もなくなるしね。でもこれ、誰でもできる芸当じゃないよね。ただの逃げになっちゃったら、ストーリーになんの面白みもなくなるから。

淡々としてるだけに、深く感動するとか、涙がこぼれるようなものではないけれど、ツキコのある種潔い結び方には胸に温かなものが訪れました。もちろん、時間が経って回想しているから整理できているんだとは思うけど、この二人の物語にはこのくらいがちょうどいいな、って思えたしね。それは作家の構築した世界観に満足できたってことだと思います。
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by april_hoop | 2010-10-13 00:00 | 出版 | Trackback(1) | Comments(0)
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タイトル : センセイの鞄/川上 弘美
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