2010年 03月 02日
ぼくと似ているか、どうか? 山田詠美『ぼくは勉強ができない』読了。ぼくは勉強ができない。けれど、どんなに勉強ができたとしても、女の子にモテなかったとしたら、そんな人生はつまらなくないか? 17歳の高校生・秀美は、父親がいなく貧しい家庭に育ったが故に、周りの同級生よりも早く大人になりつつあった。 山田詠美『ぼくは勉強ができない』|新潮社 おもしろかった。最初はこの時田秀美くんが格好よくてねぇ。嘘はつかず、ちょっと毒があって、でも基本的にはとてもまっすぐで、その背景には家庭環境に対するコンプレックスがあって。彼はきっと、父親がいないということをなんでもない、どうしようもないこととして跳ね返しながら、どこかその負い目を指摘されることを望んでいるような風で、その思春期らしさと大人になりかけている感じをうまく描いています。特に、勉強ができなくても女にモテればそれでいい、という潔さにはアッパレといいたくなるね。まったくその通りだよ、秀美くん、なんつって肩のひとつも叩きたくなるね。 が、中盤からどうも様子が違ってくる(この作品、連作短編集ね)。だんだん、秀美という17歳のキャラクターを超越して、著者が考える大人の価値観が強く出始めるのよね。言葉使いにしても思考内容にしても、いくらなんでも17歳でこれはやりすぎだろうと。あれ、秀美ってここまで考え込むタイプだっけ?って感じの話が続くのはもったいないかなー。大人から見てその主張はしごくまっとうでもあるし、刺激的でもあるんだけど、17歳の男子のフィルターを通すってのは無理あるように感じた。達観しすぎ。それこそ、秀美の言うところの、つまらない大人の考えそうなことって気がするよ。 でも、奥村先生をはじめ、登場人物を簡単に悪者に落とさない丁寧さは買いだね。著者の本を読んだの初めだてけど、とてもしっかりした自分自身の価値観を持った人なんだろうなーと想像。世の中にはまともにものを考えてるとは思えない、横並び的だったり一般論でしかなかったりする、"なんとなくの価値観"がまかりとおっている。それを手の届く範囲で手直ししようという意気込みは十二分に伝わるはず。 さて、主人公の秀美君に、ボクはわりとシンクロするし、ちょっとタイプ似てるかもと言われたことがあったようななかったような。もしかしたら、ボクも在日韓国人であるということをコンプレックスに感じていたから、わりと似た根っこを持っているのかもしれないなぁ。もっとも、ボクはそれによって後ろ指刺されたりしたことはないんだけどね。
by april_hoop
| 2010-03-02 00:00
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