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2010年 02月 03日
感想_TRIP TRAP
感想_TRIP TRAP_c0160283_144639.jpg旅は誰も満たさない。金原ひとみ『TRIP TRAP』読了。主人公はマユ。15歳、中学にいかずパチンコ屋で勤める男の家にもぐりこむ。18歳、友達と一緒に毎夏行く沼津で、いろんな男にナンパされる。数年後、パリ。彼の言動のすべてに動揺する。ハワイ。ハメを外す彼が現実に戻るのが許せない。4ヶ月の娘を連れてイタリアへ。初めて背負う責任が重い。25歳、2歳になる娘、別居して再び幸せを取り戻した私と彼。ふらりと鎌倉へ一人向かう。
TRIP TRAP: 書籍: 金原ひとみ | 角川書店・角川グループ

という6編の連作短編集。主人公はマユという女性で、旅をテーマに6つの時代が描かれる。なんかますますスムーズなレトリックになっていく金原ひとみ。もはやエロもグロもなくたって破滅志向もなくたってこんなにも楽しませてもらえるなんて。てか前作『憂鬱たち』からあっという間の最新作リリース。やはり自らも母になった体験が大きいのか、自身の旅のエピソードも多分に混じっているようで、どこか私小説のようにも感じる。流され傷ついてばかりのような思春期から、仕事を始め彼と出会いそして子を持って思うこと。

旅という非日常性は人生に永遠について回る。そこで新しいものを知ることもあれば、そのまま旅先に永住してしまうこともあるかもしれない。でも、旅は帰ってくるから旅なんだ。帰ってくるということは、そこにある非日常は日常へ戻ることを前提とした非日常であって、決して日常を満たしてくれたり埋めてくれたりしてくれる類いのものではないのかもしれない。なんて思ったわ。私たちは、とかく旅に出ると「帰りたくない〜」と言い、でも「帰らないといけない」と思っている。これはもしかしたら間違っているのかもしれない。「帰らないといけない」のではなく、「帰りたいから帰ってきている」のだ。だってそうでしょ? 本当に帰りたくないなら帰らなければいいんだから。

そう思うと、非日常性って、日常があるからこその相対でしかなくって、誰もみんな日常に依存してるんだなーとか思っちゃったわ。子育てイヤーとか、彼のこれがイヤーとか、仕事イヤーとか、なにを言ったところでそこから脱出しないというのは、そこにいることに安堵しているからなんだね。旅は罠。か。そうかもしんないねぇ。

なんてオレもトリップしちゃったけれど、かなり面白く読めました。デスティネーションもベタなところばかりだし、キャラに感情移入もしやすいし、ストーリーもオチも面白いと思う。珍しく(というか初めて)おすすめできる金原ひとみです。今は母と母性の話を連載中とか。こりゃまた楽しみだな! 角川つながりでインタビューのってたのでリンクつけときます。
金原ひとみが新作短編集で描く“女の過程”とは? | webザテレビジョン: エンターテインメントニュース

by april_hoop | 2010-02-03 00:00 | 出版


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