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2009年 11月 04日
感想_人間失格
感想_人間失格_c0160283_13232475.jpg21世紀、太宰になにを思うべきか。太宰治『人間失格』読了。幼少の頃より他人を極度に恐れる葉蔵は、道化を演じることでしか人と接することができなくなっていく。自らの本心を曝すことを頑に拒否し、しかしなぜか女たちにはかまわれ、衝動的に心中を図るが生き残ってしまう。
太宰治『人間失格』|新潮社

恥ずかしながらおそらく初めてちゃんと読了する太宰作品。これがデカダンか〜。とにかく過剰なまでの自意識にあふれまくってて、でも一人称でこんだけ書き切るのって多分離れ業。古典(の域にはまだ入らないか)は苦手だけど、これはいけたなー。面白いとは言わないけれどかなり興味深い。が、私小説とも言われ、太宰最後の完結作品だけに、ただ一読のみでこれを位置づけることはムリ。文庫には文芸評論家による解説(1972年)があるけど、この人は完全に太宰信者で、時代背景や彼の生涯ってのを重ね合わせてかないとなんとも言えなそう。てことでネットでにわか知識を仕込んでみる。

主人公が抱える対人恐怖はKYなんて言葉が流行った現代にもぴったり。太宰は100年も先取りしてたのか。そのコミュニケーションの方法は人間関係の本質も射抜いていて、共感はあんまりしないけど理解は十分できます。そう、今のオレはこの男に共感なんてこれっぽっちもしないんです。堀木だったりヒラメだったりは、俗人の象徴なのかもしれない。けどそれはあくまで太宰の主観、一側面でしかないのでは、と思ってしまう。主人公はあまりにもニヒルで、自己陶酔的。独善的ですらある。自身の体験を卑下し、人間失格と題し、狂人扱いされることに煩悶する姿に、簡単に同情するわけにはいかないんすよ。それって多分、身も蓋もないけど時代の違い。こんだけグローバルでユビキタスな今、コンプリケイテッドな世の中において善悪を簡単に割り切るわけにもいかず、一人称の語ることのみを鵜呑みにするわけにはいかねーぜって感じ。

ただ、これほどのダメ男でもやっていけちゃう姿には若干の憧れも。不器用で卑屈だけど人を惹き付けるなにか。なにゆえそこまで追いつめられてしまうのか。ダークサイドの中に垣間見える浮世離れ。もしかして、ベクトルは全然違うけれど、村上春樹との類似ってあるんじゃないの?と思って検索すると三島由紀夫の名前まで出てきた。あー三島由紀夫もノーチェック。この方向で論じるにはあまりに素養が足りませんでした。あさはかエイプリル。

てか、この一冊じゃまるで判断できないわ。せめて代表作だけでももうちょっと読まないと! なんたって今年は生誕100年(それが1Q84年てのもなにかの因果か)。映画化作品も続くし(本作もね。どうなっちゃうんでしょ)、手を伸ばしてみます。

by april_hoop | 2009-11-04 00:00 | 出版


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