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2005年 06月 16日
感想_となり町戦争
第17回小説すばる新人賞受賞作、三崎亜記『となり町戦争』を読了。正直、すごく引っかかるタイトルだったわけでもないのだけど、なんか話題の本らしいし、買ってみた。面白そう!とは思わなかったんだけど、うっかり面白いかもな、くらいの期待値で。

で、面白くなかった!(笑 なんちて。
お話としては、ある日主人公の住む町と隣の町が戦争を始めることになった。それは町の広報誌によって知らされた。しかし、いざ開戦日がきても何の変化もない。でも戦争は確実に行われているらしい。やがて主人公にも役場から偵察任務が与えられるが、そこにもやはり戦争の影はない。にもかかわらず、戦死者は日に日に増えていく。戦争との唯一の接点はそれを"事業"として遂行する町役場と、そこでとなり町戦争係として働き、"業務"として主人公と偽装結婚する女性、香西さんのみ。彼女たちから間接的に知らされる戦争。結局、戦争と思しき現場に直面することはほとんどなく終戦の知らせを受ける。一体この町の戦争とは何だったのか。

基本的に、"見えない戦争"のなかで、戦争とは? みたいな自問自答を中心に描かれる。だから、ストーリーに劇的なドラマ性があるわけでもない。だって見えないんだもの。この見えない戦争ってのがキーなんだろーなぁ。"戦争"っていうと、銃や戦車でドカンドカン、みたいなイメージ。だから、それ以外は戦争として認知できない。直接的に誰かを傷つけない限りは、誰を傷つけようが、極端な話、殺したとしても自覚できないという危険性を訴えているような気もする。

戦争をする人はある種の純粋性をもって臨んでいるのかもしんない。戦争やテロに大義を持ってる人間に何と言って戦争を止めさせたらいいんだろう? 戦争がなぜいけないことなのか、戦争のどこが駄目なのか。香西さんの口にする戦争、主任が語る殺人、明確には何も示されないけど、読者をハッとさせるメッセージが多いような気がする。娯楽性は低いけど、ちょっと考えさせられる作品です。作者の思想を押し付けがましくなく、問題提起してるんだなー、と。

見えない戦争を演出するためだと思うけど、この本全体に感情的な匂いはほとんどない。だから、全編通してすごく観念的な雰囲気がただよう。かといって村上春樹のようなファンタジー感はない。そしてすべてが受動的に進む。そのへんが個人的にはあまり好きじゃなかったっス。

ちなみに作者の三崎亜記氏、男性らしい。。




by april_hoop | 2005-06-16 00:00 | 出版


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