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2007年 08月 31日
感想_手紙
感想_手紙_c0160283_0193064.jpg映画公開時に文庫化されて猛烈に平積まれてたね。非ミステリな東野圭吾『手紙』読了。兄が殺人を犯し、天涯孤独となった男。服役囚の家族として世間の目にさらされなければならない苦悩と、社会との繋がりを描いた物語。傑作。

すんごいリアル! 章ごとにさまざまな壁にぶち当たり、そのたびに多くのモノを諦めてく。友達、仕事、夢、恋。殺人犯の弟という厳然たる事実と、それによる差別&逆差別。単純な善悪ではくくれない社会の見えざる感情を正確に起こすのは東野圭吾らしいバランス感覚です。そして著者なりの結論づけもめちゃめちゃまっとうで説得力あるわ。そう、東野センセー、いつだってドまっとうなんだよね。それが何よりも魅力的。

秘密を隠し続ける事はおよそ不可能に近く、かといって秘密をオープンにしたからといって他者も同じようにオープンに接してくれるはずがない。これは犯罪関係以外に性差別、格差社会、その他諸々でも同様。消えてなくならないものに対しての是非を問うのではなく、消えてなくならないものをそれとして受け入れた上で対処するのが現実的。善悪の議論とは別次元にある圧倒的に的を射たロジックだね、こりゃ!

加害者、被害者、そしてその身内。あらゆる視点を等しく描き、それが社会だと断定する東野圭吾。加害者の家族をここまで掘り下げたこともすごいし、世間というものを俯瞰できる眼力にまたまた感服でした。主人公・直貴の唯一にして最大の救いである由美子。彼女の人生にもめちゃめちゃ興味がそそられるわ。スピンオフしとくれ!

by april_hoop | 2007-08-31 00:00 | 出版


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