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2014年 07月 08日
感想_華氏451度
感想_華氏451度_c0160283_1661397.gif予見しすぎててスゴ! レイ・ブラッドベリ『華氏451度』読了。近未来、そこは本を読むことが禁じられた世界。書物を見つけ次第焼却する、昇火士(ファイアマン)のモンターグはその仕事に誇りを持っていたが、ある日、クラリスという風変わりな少女に出会う。彼女は、世界の成り立ちについて常に疑問を持ち、豊かな感性を持ち合わせていた。以来、モンターグは自らの仕事に疑問を持ち、ついには禁じられていた本に手を伸ばし…。
華氏451度 〔新訳版〕:ハヤカワ・オンライン

きっかけは、ヨコハマトリエンナーレのモチーフになっていたから。本が燃える温度とされる華氏451度ってどんな小説なのよ、ってことで読みましたが、なかなか面白かったぜ。読む前はかなり哲学的、倫理的な内容を予想してたけど、意外とライトなSFだったのでわりと軽やかにエンタメとして読めました。でありながら、その中に示唆的な内容は多分に含まれてたんだけど。

なんといっても、1953年刊行にして、現代を見事に予見しているところが素晴らしいわ。本が禁止ってとこまでは言ってないけど、メディアが大きくなり、影響力が広がるにつれ単純化され、画一的になり、思想を統一しようとするって、まさに今そのものじゃんね。議論することなく大きな流れが幅を利かす恐怖感は、かなり共感できてしまうという恐ろしさがあるわ。テクノロジー社会の描写もなんとなく当たらずとも遠からずな感じだし、これは考えざるを得ないなー。

本の役割とはなんといっても知識のアーカイブであり、そして体系的にまとめられていることですよね。100年しか生きられない人間が、人生以上の叡智を得る手段であり、思想を巡らせ考える時間を持つためのツール。機能だけならインターネットのほうが便利に担えるだろう。でも、「思索する時間」をくれるのは、ネットより書物なのかもしれないな、って思います。ウェブサイトについて、思索するのってなかなか難しいというのが実感。まあ、デジタルネイティブにはそんなことないのかもしれないけれど。

なんかこのテーマならもっともっと深く重厚な物語にすることもできたんじゃないかと思うくらい。クラリスなんて最高にイカしてるのにごく序盤で退場しちゃって哀しすぎるし。ベイティーもスピンオフできそうな物語の匂いがあるし。ミルドレッドにさえ、なんか哀しい存在として共感できるものになりそうだしな。

なんにしても、微妙な不安が取り巻く現代を乗り越えるためのヒントを感じる1冊。読んで損はなかったです。ヨコトリもまた楽しみなりよ。

by april_hoop | 2014-07-08 00:00 | 出版


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