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2011年 08月 06日
感想_ぬるい毒
感想_ぬるい毒_c0160283_2214748.jpg自意識過剰過ぎでは。本谷有希子『ぬるい毒』読了。ある日高校の同級生を名乗る人物から電話がかかってきた。男の名は向伊。魅力的過ぎる向伊の不誠実で軽薄な、しかし誰にもばれることない嘘に乗っかることを決めた私。23歳ですべてが決まると信じる19歳の私は、どうしようもなく浅い自分を知りながら、向伊にも同じ浅さを感じさせたくて彼の言葉に従い始めて。
本谷有希子『ぬるい毒』|新潮社

独自の自意識を描き続ける(2作しか小説読んでないけど)本谷有希子の新作は、芥川賞候補作。ん〜。読みづらい本だったなー。枚数は少ないのに、ねちねちした一人称と、簡単には共感できない描写とで、簡単にはリズムに乗せてくれませんよ(いつもか)。得意な感じではないです(いつもだな)。

比べるもんじゃないかもしんないけど、金原ひとみだって強烈に自意識を描いていて(ついでに破滅的傾向も)、なのに全然違うんだよなー。どちらも一種の嫌悪感を抱くのに、金原作品はわりに気になるけど、本谷作品はどうもついていききれぬでござるよ。

自意識を掘り下げて行くと、客観というものの曖昧さがどんどん際立って行く。所詮自分が考える客観てのは主観の変化形でしかなくて、なので一人称で語られる本作も、真に向伊がなにを考えているのかは誰にもわからない。もしかしたらそのあたりのギャップをテーマにしている本なのだろうか。自分一人が独りよがりに思い煩うことの滑稽さ。主人公熊田に同情はしないけど、もしかしたらとんでもない醜女なのかもしれないと、最後には思ったよ。垢抜けてなんてこれっぽっちもいないんじゃないかって。わりと確信を持って。

全編がぬるい毒であって、「ヌルイ」は熊田が心に思う台詞ではあるけれど、ぬるさはそれ以外の全部で感じられる。熊田のあまりにもバカバカしい堂々巡りは、そのぬるさゆえに私たちに何かを気づかせるのかもしれない。考えなくていいことまで考え過ぎるのは、行き過ぎるとここまで滑稽であることを主張するかのようにも思える。自分に確信が持てないゆえの相手依存の考え方。相手を出し抜くことで証明される自己の存在と意義。それは向伊も、熊田も、原も同じことで、見え透いた打算は常にただ目的もないまま宙ぶらりんになっていて。

なんとも後味の悪い小説でした。こういうのが評価されるものなのかー。

by april_hoop | 2011-08-06 00:00 | 出版


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