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2011年 02月 13日
見えないのは何が遠いから?
見えないのは何が遠いから?_c0160283_839681.jpg久しぶりに美術館にでも行きたいなーと思ったので、誘われるがままに行ってきた横浜美術館。現在の企画展は高嶺格さんの『とおくてよくみえない』。なんでも美術展とかで、子供たちが「遠くてよく見えないよー」って言ってたのがタイトルのインスピレーションだったそうな。英語にすると「too far to see」。この語感すごく好きだったのも興味をそそられた一因。
高嶺格:とおくてよくみえない 横浜美術館

ひと言で感想を言うと、これでもか!ってくらい難解だった。現代アートに造詣のないせいもあってか、なかなかなにも落ちてこないのである。表層的なスゲー!とかカッチョイイ!とか美しい!とかそういうのはほとんどなかった。さらにそれらをなんとか解釈させるようなヒント、ひっかかりみたいなのも見つけられなくて、うーん困ったな、なんて感想を述べたらいいんだろう、と思ったりした。そんなとき頼るのは言葉なんだよな、オレの場合。「とおくてよくみえない」。

会場入口から響き渡るのは不穏な音。巨大なファンが回っているような(実際扇風機が回ってた)。最初の展示室は、キャンバス作品たち。テキスタイルみたいなもの、シンメトリーなものなどいろいろ。それらには、タイトルと一部キャプションが用意されている。作品はなにかを明示しているようには思えないものだったから、このキャプション書く学芸員はすごいなーって思った。手がかりのないものから無理矢理解釈のようなものをひねり出してるからさ。でもそれはどうやら、アーティストの「なるべく難解に」という指示のもと書かれてたものらしい。なるほど。でもよりいっそう書くのが難しくなってそうだ。笑 とにかく、美しい作品たちだったけどそれが指し示すものはつかめなかったー。最後の植物っぽいのはインパクトあったな。今展示でいちばん好き。「とおくて〜」にちなんで近づいたり遠ざかったりもしてみた。近づくと自分の影が映り込む。物理的に近づくことで見えることもあるんだな、と思う。

次に薄暗い部屋の中で、階段を上り、部屋を高いところから見下ろす作品。波打ち際にジャンクな漂流物がちらばっているようなところに、センテンスがうねうねと書き連ねられていて、スポットライトが文字をひとつずつ照らしていく。みんな、この光を追って文字を読んでいく。でも照らされてるのは常に一文字だから、読んだそばから、あれなんて書いてあったっけ?なんて感じで忘れていく。今見たものたちすら、5秒後には見えなくなっているのだ。そして、人は闇の中で光があたると光ばかりを見てしまうんだな。周囲をキョロキョロしたけど、みんな光と文字だけを追っていた。ここにはメタファーを感じたよオレは。人は意味を汲み取ろうとするあまり、見えなくなるものがあるってことに。

その後は映像を使った作品が続く。これまた変わった、というか奇妙な、というか珍妙な作品たちで、なにを読み取っていいのやら(なにを読み取ってもいいんでしょう)。早回しで粘土細工のモンスターが形を変えて行くもの、なにやら外国の友人との決裂した会話、そして作家自身の在日二世である奥さんとの結婚式の写真と文章と映像など。どれもメタファーじみた言葉たちが添えられている。言葉を作品に組み込んでいくのもこの人の特徴なのかも。で、どれも自分との距離が遠いから、なんだか一線を引いてみてしまうんだけど、それこそが狙いなのではなかろうか。見えないのは、なにが遠いからですか?と。ちなみにわっちは在日三世なので、結婚式の作品はまた違った視点で見てしまったのだけど、それは自分探しのお話なのでいつかどこかで。

最後にモノクロシルエットの映像が映し出される部屋へ。壁にもまた投影された文字やらシルエットやらが踊る。正面のスクリーンに映されるのは地面からにょきにょき生えた男根と思しきものを、人々がやってきては這いつくばって頬張ってまた去って行くという(いわゆるフェラですね)、シュールっちゃシュールな作品。セクシャルな内容で、なんとも言えんかったのぉ。

時間を置いてあらためて振り返ってみると、なんとなく感じるものはあるな。「とおくてよくみえない」。これはもちろん物理的な意味だけじゃない。近くに寄ったからって隠れていた何かが必ずしも見えるわけじゃなくて、観念的、精神的にどこまで近づけるかということなのかな。作品が提示している状況にない自分が、いざその状況に置かれたときどんな感情になるのか。開かれるのか。閉ざされるのか。感じるのか。感じないのか。そんな問いかけをされてたんじゃないかって思う。答えとしては、面食らいまくってなんじゃこりゃーって思ってたけど、家に帰って思い出してたらこんなことを感じました、である。うん、これでよかったのかな。

わかりやすい答えばかりが求められがちな現代だからこその現代アート。やはりこういうインプットがあるのは気持ちよかったな。展示期間は3/20までなりよ。

by april_hoop | 2011-02-13 00:00 | 文化


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