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2008年 03月 05日
感想_星へ落ちる
感想_星へ落ちる_c0160283_093063.jpg今度は連作短編集なのね。金原ひとみ『星へ落ちる』読了。私は彼に恋をした。彼には一緒に暮らす恋人がいた。私は邪魔にならないように彼を想う。想えば想うほど苦しい。彼の恋人は私の存在に気付いているだろう。私がかつて一緒に暮らしていた男からの電話が鳴っている。「私はいつからこんなに苦しいんだろうああそうか彼を好きになってからだ」

ありゃ、12月に出てたのに見落としてたので慌てて購入。大っぴらに好きだっていうつもりはないのに、ついつい読み続けてしまう金原ひとみ。気付けば(気付かないはずないけど)全作コンプ。コンスタントに新作描いてますな。今回は紅色の装丁。赤系がすっごく合うわ。ストレートに血流を連想させられてしまう発想貧困なオレ。スプラッタな意味ではなく、心身の中を流れる血液レベルの衝動ね。

まず、また少し文章が上手になってる気が。心情に合わせた句読点排除は相変わらずのリアリティで、だけどセンセーショナルな誇張表現とか、過剰な性的表現とかなくなってきて、丸くなったというよりは余計な力みがなくなっていくような。とにかく金原ひとみらしさは損なわずにかなりすとんと落としやすくなっている印象。今回は男性主観も登場! なかなかツボを抑えてて、違和感がない。オレからすると、もしかしたら女性主観よりも移入しやすいかも。こりゃ新しい発見。

恋愛に堕ちて行く様は、極端に描かれているようでいて、その実誰もが抱えてる普遍的な感情。名前もなければ、背景も最小限なのに、登場人物の顔が浮かぶような、そんな立体感が感じられる。希望があるのか、ないのか。わかりあえてるのかいないのか。そんな葛藤もきっと多くの人が共感できるはず。恋心とはなんと自分勝手な感情なのか。人間はどこまで束縛したがるのか。「彼」の素顔が見えないところが、そんな読後感をいっそうあおるわ。うーん、苦しいぜ。

ボリュームも少ないし、サラっと読めて、あと味はビターめ。やや軽いのが気になるけど、恋をする負荷や狂おしさとか、ネガ系を味わいたい人はぜひ。

by april_hoop | 2008-03-05 00:00 | 出版


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