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2009年 04月 07日
感想_朗読者
感想_朗読者_c0160283_2358236.jpg映画のほうが情感あるなぁ。ベルハルント・シュリンク『朗読者』(松永美穂訳)読了。15歳のミヒャエルは、20歳以上も年上の女性ハンナに惹かれ、彼はその抑えようのない衝動のままハンナと交わりを持つ。学校も級友もおいてハンナにのめりこむミヒャエルに、彼女は本の朗読を頼むようになっていた。そんな関係に微妙な翳りが見え始めた時、ハンナは突然姿を消す。理由もわからず苦しむミヒャエルがハンナと再開を果たした場所は、彼が大学生になった後の裁判所。彼女は、かつて強制収容所の看守として犯した罪を裁かれる被告人としてそこに立っていた。
ベルハルント・シュリンク 松永美穂『朗読者』|新潮社

ご存知、映画『愛を読むひと』の原作。やっぱり訳本だからなのかな?、映画にあったようなむせ返るほどの情感や、理解と不可解の間にある葛藤や、それらが重なり合って迫ってくるような力強さってのはなかったなー。ドイツ文学ってそういうもんなのでしょうか。ショッキングなストーリー設定の割に、語り口が平坦で硬いのよね。ミヒャエルの回想独白方式がそれを助長していて、彼の回りくどい物事の捉え方とか、ひねくれきってしまって斜に構えるとかそういうのも通り越した屈折っぷりが、ひどく小説を読みづらくしてしまったように思うんだけど、どーなのよ? 朗読しづらいってば。それとも単に、訳し方の問題なのか。

おかげでストーリー上、かなりショッキングな秘密が明かされるときも全然盛り上がりなし。映画だと目を見開かざるを得ないほどセンセーショナルなシーンなのに、弾けることもなし。そして、ミヒャエルの一方的な語りは、ハンナという人物を思い描くヒントを全然くんないの。もちろんエピソードはいくつも描かれているし、秘密が徐々に明らかになっていくことは確か。なのに、ちっとも体温ある人物として想像できない。彼女がほぼ命を賭けて守り通そうとしたものがなんだったのか、ただでさえwhy!と投げかけたくなるようなネタだけに、こうもキャラが立たないと核がぼやけちゃうよね。そりゃー、ミヒャエルは結局ハンナのこと何も知らなかったんだからある種必然かもしれないけれど。

そんなわけで、ミヒャエルの抱えていた問題も、なーんかしちめんどくさく描かれて、ちょっと胃もたれ気味。根っこにあったドイツのナチに対する考え方ってのは、ひとつの勉強にはなったけど、主が活きてこないとなかなか脇にはつらい荷物だわな。まあとにかく、映画は傑作。改めてそう思いました。

感想_愛を読むひと

by april_hoop | 2009-04-07 00:00 | 出版


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